春
或る門のくづれて居るに馬酔木かな
黄色の仏ぞおはす蕨かな
ややありて気艇の波や蘆の角
葛飾や桃の籬も水田べり
日輪や蝌蚪の水輪の只中に
夏
遊び女に真菰刈る子の声すなり
夏帽に湖光果てなくひらけたり
葛飾や浮葉のしるきひとの門
遠泳や高浪越ゆる一の列
やうやくに倦みし帰省や青葡萄
秋
コスモスを離れし蝶に谿深し
秋耕やあらはの墓に手向花
しづみ見ゆ手古奈の宮や蘆の花
蝋あかく弥勒のおはす良夜かな
鯊釣や少年夙に門に待つ
冬
寒鯉の魚籠にひかりて月ありぬ
見るかぎり枯れ立つ桑と鵙の贄と
谿の音雪崩なりける機始
茶の花のこぼれて似たる門辺かな
寒月や野々宮なほも闇深く
当麻曼荼羅縁起
恋ふらくは沙羅双樹咲く園の春
眉月とひかれる像機の上
白蓮やその瑞茎を巻きかへし
織りいでし浄土や春の夢ならぬ
囀や当麻の塔のふたつながら