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蛍火の白描なるや玉蔓
源氏絵に蛍写して描きけり


平安時代の屏風絵の主題は四季である。宮中絵師達の仕事は、四季の自然を写し取り描くこと。源氏物語も絵画芸術として捉えると、やはり、各巻にストーリーが描かれていても、心象風景の象徴として登場人物の背後や周囲に描かれるのは、四季の風物であり、現代の歳時記につながってくる。四季が移っていくのと同時進行で物語の筋立てが進んでいく仕組みとなっている。そうして紫上が亡くなる御法の巻の後に置かれている幻巻では、その巻には四季を通じて四季の昔を静かに偲んでいる光源氏の姿を1巻にまとめて描くことで、光源氏の一生の物語としての源氏物語の前半の幕が下りる。

この絵は、母親が亡くなる直前まで取り組んでいた源氏物語の作画であるが、完成されることなく白描に蛍が描かれている。その蛍も実際に観察して写生したものを作画にしようしたのだと思われる。絵も完成しないまま、母親は救急車で病院に運ばれてゆき、この家には二度と戻って来なかった。